Part1
昔誰が使っていたかなんて考えたこともなければ気にもしなかった。
安かったから買っただけだ。
私は二十四歳で、ブルックリンに住みマンハッタンで働いている。
時々オフィスから仕事を持ち帰る。
そして数週間おきにフロリダの実家に手紙を書く。
だから机が必要だったのだ。
その机は重厚な木製だった。
天板から約60センチほど後ろに小さな仕切りが立ち上がっている。
その下には三つの小さな引き出しが並んでいた。
あの夜、机でしばらく仕事をした後、私は引き出しの一つを引き出し、その構造を賞賛しながら手に持ち上げた。
すると突然、私の手にある小さな引き出しの奥行きはわずか6インチ(約15センチ)なのに、机の天板は少なくとも1フィート(約30センチ)も奥まで伸びていることに気づいた。
私はその隙間に手を差し込み、奥に隠された隠し引き出しの取っ手を触れた。
それを引き出した。
真っ白な便箋が数枚、封筒が三つか四つ、小さな丸いガラス瓶に入ったインク、そして無地の黒い木製のペンがあった。
封筒の一つが他よりわずかに分厚いことに気づいた。
開けると中に手紙が入っていた。
日付を見る前から、この手紙が昔のものと分かった。
その筆跡は美しく明瞭で、文字は優雅で完璧な形をしていた。
インクは錆びたような黒色で、ページ上部の日付は1882年5月14日。読み進めると、それはラブレターだとわかった。
冒頭はこうだった。
「最愛の人へ!
母と父とウィリーはとっくに眠りについた。
今や夜も更け、家は静まり返り、私だけが目を覚まして、ようやく自由に君に語りかけられる。
そう、私は言いたい!
君の優しい眼差しに再び包まれたいと!」
| Jake Belknap | (名)ジェイク・ベルナップ |
|---|---|
| secondhand | (形)〈商品が〉中古の |
| apartment | (名)アパート,(賃貸)マンション |
| Manhattan | (名)マンハッタン区 |
| Florida | (名)フロリダ |
| compartment | (名)区画,仕切り |
| desktop | (形)机上の,卓上の |
| underneath | (前)…の下に[を,で] |
| drawer | (名)引き出し |
| admire | (動)〈…を〉称賛する,〈…に〉感心[敬服]する |
| envelope | (名)封筒 |
| handwriting | (名)手跡,筆跡 |
| elegant | (形)上品な,優雅な,しとやかな |
| rust | (名)(金属の)さび |
| Willy | (名)ウィリー |
| retire | (動)床につく,就寝する |
| willing | (形)〈…することを〉いとわなくて |
| tender | (形)(他人に対して)思いやりがあって優しい; あわれみ深い,愛する |
| warmth | (名)温情,思いやり |
Part2
私は少し微笑んだ。
かつて人々はこんなにも精巧な言葉で思いを綴ったのだ。
だがなぜこれが送られなかったのか、不思議に思った。
「愛しい人へ:私は愛さない男と結婚しなければなりません。
父を喜ばせるため努力してきましたが、悲しいかな従う義務があることを悟り、間もなく承諾せねばなりません。
ああ、あのことから私を救ってくれたら!
しかしあなたはできない――あなたは私の心の中にしか存在しないのだから。
だが、たとえあなたが私の想像の中にしか存在せず、たとえあなたの姿を決して目にすることがなくとも、あなたは婚約者よりも私にとって大切な存在です。
私はいつもあなたのことを考えています。
夢にもあなたが出てきます。
心の中で、そして魂の中で、あなたと話しています。
どうか、この世界にも存在してくれれば!
愛しい人よ、おやすみなさい。
あなたも私の夢を見てください。
愛を込めて、あなたのヘレンより」
ページの下部には「ヘレン・エリザベス・ウォーリー様、ニューヨーク州ブルックリン区ブロック・プレイス972番地」と記されていた。
あの遠い夜中に響いた心の叫びに、私はもはや微笑むことはなかった。
彼女の言葉を読むうちに、彼女は生き生きと現実味を帯びて感じられた。
そして、彼女が生きる世界と時代に対する、秘められた絶望的な訴えをじっと見つめながら、私の心は彼女に寄り添った。
なぜかはわからないが、あの春の夜の静けさの中で、古びたインク瓶の栓を抜くこと、その横に置かれたペンを手に取ること、そして机の上に黄ばんだ古い便箋を広げて書き始めることが、ごく自然なことのように思えた。
私は書きながら、今も生きている若い女性と交信しているような感覚に陥った。
「ヘレン:あなたの机の隠し引き出しにあった手紙を読んだところです。
もしあなたに届く方法があったら、私がどう思われるか想像もつかない。
ヘレン・エリザベス・ウォーリーさん、今のあなたがいる時と場所で、できる限りのことをしてください。
私はあなたに届かず、助けられない。
でも、あなたのことを思うよ。
そして、夢にも見るかもしれない。
ジェイク・ベルナップより」
| elaborate | (動)〈ものを〉念入りに作る,苦心して仕上げる; 精巧に作り上げる |
|---|---|
| obey | (動)〈人に〉従う,服従する |
| accept | (動)〈贈り物などを〉(進んで)受け入れる,受納する |
| imagination | (名)想像,想像力 |
| sweetheart | (名)いとしい人 |
| Helen Elizabeth Worley | (名)ヘレン・エリザベス・ワーレイ |
| Brock | (名)ブロック |
| hopeless | (形)絶望した,望みを失った |
| cork | (名)コルクの栓 |
| notepaper | (名)便箋(びんせん) |
Part3
私がしたことは愚かなことだったかもしれない。
説明しづらい。
それでも私は紙を折り畳み、古い封筒の一つに入れ、封をした。
そして封筒の表に「ヘレン・ウォーリー様」と彼女の住所を記した。
古い切手を貼り、それを手に取ってアパートを出て、夜の闇の中を歩いた。
目的地はウィスター郵便局――ブルックリンで最も古い郵便局の一つで、おそらく南北戦争直後に建てられたのだろう。
翌週はずっと非常に忙しかった。
その金曜の夜、私は自宅で机に向かい仕事をしていた。
しかし今また、ヘレン・エリザベス・ウォーリーが頭から離れなかった。
私は夜通し黙々と働き、終えたのは深夜12時半頃だった。
机の中央にある輪ゴムやクリップをしまっていた小さな引き出しを開けた。
すると突然、もちろんここにも裏に引き出しがあるはずだと気づいたのだ。
そんなこと考えたこともなかった。
前週はまったく思い浮かばなかったのだ。
そして今週はずっと忙しくて、それ以来考える余裕もなかった。
だが今、私は中央の引き出しを完全に引き出し、手を伸ばしてそこに付いている小さな取っ手に触れた。
二段目の隠し引き出しを引き出すと、そこには黄ばんだ古紙に錆びた黒インクで書かれた別の手紙があった。
そこにはこう記されていた。
「お願い、どうかお願い――あなたはどなたですか?
どこに連絡すればよいのですか?
あなたの手紙が今日届きました。
私の手紙があの隠し場所に置かれているのを見抜いた方法など想像もつきませんが、もしそうなら、この手紙もきっと見つけてくれるでしょう。
どうか、あなたの手紙が罠や残酷な冗談ではないと教えてください!
もし私が今、私の最も秘めた希望に本当に応えてくれた方へ宛てているのなら――どうかこれ以上、あなたが誰でどこにいるのかを私に知らせないままにしないでください。
もう一度あなたから連絡をいただかねばなりません。
そうするまで私は休むことはありません。
心より、ヘレン・エリザベス・ウォーリー」
| foolish | (形)愚かな,ばかな |
|---|---|
| fold | (動)〈紙・布などを〉折る,折り重ねる,折りたたむ |
| Wister | (名) ウィスター |
| steadily | (副)着実に,しっかりと; どんどん |
| rubber | (名)輪ゴム |
| conceive | (動)〈…だと〉想像する; 〈…と〉考える,思う |
| cruel | (形)〈人・行為など〉(人に苦痛を与えても平気でいる,という意味で)残酷な,冷酷な,無慈悲な,じゃけんな |
| ignorant | (形)無学の,無知の |
Part4
長い間、私は古い机の一番下の小さな引き出しを開け、そこにあったペンとインク、そして一枚の便箋を取り出していた。
ペンを手に、何分間も私はそこに座り、真っ白な紙をじっと見つめていた。
ついに、ペンを古いインクに浸し、こう書いた。
「ヘレン、愛しい人へ:
どう伝えればいいのかわからないが、私は確かにここブルックリンに存在している。
君がこれを読んでいる場所から、わずか三ブロックも離れていない場所で――1994年の今この瞬間にも。
私たちを隔てているのは空間ではなく、私たちの間に横たわる年月なのだ。
今、私はかつて君が所有していた机を所有していて、君がその机で書き、私がその中に見つけた手紙だ。
ヘレン、私が言えるのは、私はその手紙に返事を書き、深夜に古いウィスター郵便局から郵送し、それがどうにか君に届いたということだけで、この手紙も届くことを願っている。
これは冗談ではない!
こんな残酷な冗談を誰がするだろうか?
私の言葉を信じてほしい。
私は生きている。
君がこれを読む112年後も存在し、君に恋をしたという思いを抱いている。
しばらく壁を見つめながら、確信している真実をどう説明すべきか考えていた。
それから私はこう書いた。
「ヘレン:私たちの机には三つの秘密の引き出しがある。
最初の引き出しには、あなたが入れた手紙だけを見つけた。
あなたがすでに成したことを今さら変えることはできないから、今やその引き出しから私に届くものは他に何もない。
二番目の引き出しには、私が数分前に引き出しを開けた時に見つけた手紙が今目の前にある。
あなたは何も他にそれを入れなかったし、そして今や、それもまた変えられない。
しかし三つ目の引き出しはまだ開けていない、ヘレン。
まだだ!
それが君が私に届く最後の手段であり、最後の機会だ。
以前と同じようにこれを郵送し、待つ。
一週間後、最後の引き出しを開ける。
ジェイク・ベルナップ」
| dip | (動)〔液体に〕ちょっと浸す |
|---|---|
| alter | (動)〈…を〉(部分的に)変える,変更する; 〈家を〉改造する |
Part5
長い一週間だった。
三つ目の秘密の引き出しを早く開けたい衝動に駆られたが、確信が持てず待った。
そして深夜、古いウィスター郵便局で二通目の手紙を投函してからちょうど一週間後の時刻、私は引き出しを引っ張った。
何ページにもわたる長い手紙で、彼女が言いたいことを全て綴ったものだろうと予想していた。
しかし、そこには手紙など何もなかった。
約三インチ四方の、色あせた茶色の写真がただ一枚だけあった。
その写真には、ハイネックの暗い色のドレスを着た美しい若い女性が写っていた。
写真の下部には彼女が「私はあなたを決して忘れません」 と書き添えていた。
古い机に向かい、彼女が書いた言葉を見つめながら、私は悟り、もちろん彼女もこれが私への最後の連絡になるだろうと知っていた。
しかし、それは最後ではなかった。
ヘレン・ウォーリーが年月を超えて私と交信する最後の手段が一つ残されており、彼女と同じように、私もそれを理解するまで長い時間を要した。
つい一週間前、長い探索の末、ついにそれを見つけた。
静かな木々の下、列をなして並ぶ他の墓石の中に、あの古い墓石を見つけたのだ。
そして風化した古い石に刻まれた碑文を読んだ――ヘレン・エリザベス・ウォーリー 1862-1934。
その下にこう記されていた。
「私は決して忘れませんでした」
私も決して忘れない。
| tempt | (動)〈人を〉(悪事・快楽に)誘惑する,そそのかす |
|---|---|
| headstone | (名)墓石 |
| cemetery | (名)共同墓地 |
| inscription | (名)銘,碑銘,碑文,題銘,(貨幣などの)銘刻 |

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