Part1
私は今ドミニオン・インペリアル・インターナショナル・ホテルのロビーにあるふかふかの椅子に座っている。
冗談じゃない、本当にそんな名前なんだ。
友達のウェンディに連れられて男に会うために来たんだけど、彼には内緒だ。
実際、彼はウェンディのことも知らない。
でもそれでも彼女は彼に恋してる。
いや、恋じゃないかもしれない。
少なくとも恋は会ったことのある人にするもんだと思うんだけど。
ウェンディはCraig the Cat’sに会ったことがない。
それが男の名前だ。
少なくとも芸名としては。
彼は半年以上も有名なロックスターだ。
私の両親でさえ彼のことを知っている。
ウェンディはCraig the Cat’sの最新アルバムにサインをもらうためにここにいる。
彼女はいつもCraig the Cat’sの話をしている。
でもそれはまるで、別の大陸で、別の時間軸で起きていることを議論しているようだった。
私は気にしなかった。
心地よく、安全な非現実だった。
今日、Craig the Cat’sが街に来るまでは。
ウェンディは腕時計を見る。
「彼はシャワーを浴びて今はリラックス中よ。休息して、意気揚々として、受け入れる準備ができている。」
「何を受け入れるの?」
「私たちに会うこと。私のアルバムにサインすることよ。」
「どうやってそれを実現するの?彼がこのホテルに泊まってるって確証もないし、仮に泊まってたって部屋番号も知らないんだよ。」
ウェンディは立ち上がった。
「ネガティブにならないでよ、ロザリンド、来て。」と彼女は言う。
私は彼女について、ホテルの客室と通話できる公衆電話まで行く。
彼女は番号をダイヤルし、待つ。
そして「Craig the Cat’sさん、お願いします。」と言った。
overstuffed | (形)〈いす・ソファーなど〉詰め物をたっぷり入れた; ふかふかしすぎる |
---|---|
lobby | (名)ロビー,(玄関)広間 《休憩室・応接間などに用いる廊下・ホール》 |
dominion | (名)支配[統治]権[力], 主権 |
Wendy | (名)ウェンディー |
drag | (名)(重いものを)引く, 引っ張る |
autograph | (名)自署,サイン |
frame | (名)(time frameで)時間枠,概算時間 |
unreal | (形)想像上の,架空の,非現実的な |
triumphant | (形)勝ち誇った,得意の,意気揚々とした |
receptive | (形)〔…を〕よく受け入れて |
Rosalind | (名)ロザリンド |
caller | (名)電話をかける人,発信者 |
dial | (名)(電話機の)ダイヤル |
Part2
彼女は私を見る。
「見つけたわ!聞いて!」
受話器を私の方に向け、私も聞こえるようにする。
電話の向こうで女性が言う。
「どうやってCraig the Cat’sの居場所を突き止めたの?」と彼女は尋ねた。
「情報漏えいよ。漏らした犯人が誰か知りたいの。」
「誰もいないわ。情報を持っているのは私だけ。お願い、聞いて。彼のサインが欲しいの」
「すると思う?」
「お願い。可能性は?」
「ほぼゼロよ。」
「ああ」
「私は彼のマネージャーであり、親愛なるあの子、彼の母親でもある。二つの立場からCraigを守っているの。さて、彼の居場所を知っているファンは他に何人いる?」
「私の知る限りでは誰も。」
「高値で情報を売らなかったってこと?」
「そんなことしないわ」
「そうかもしれないけど、彼のファンにはうんざりよ。放っておいて!切るわね。」
カチッ。
ウェンディはため息をついた。
「彼が向こうの店に食事に行くまで待つしかないわね。」
「ルームサービスって知ってるでしょ?」
「Craigはルームサービスが嫌いなの。食堂も嫌いだわ。彼はカフェ派なのよ。」
「どうして知ってるの?」
「知ってるの。」
「部屋番号はどうやって知ったの?」
「知ってたの。」
receiver | (名)(電話の)受話器 |
---|---|
leak | (動)〈秘密などが〉漏れる |
none | (代)(…の)いずれも[だれも,何一つ]…ない |
vantage | (名)有利な立場,優位 |
bidder | (名)せり手,入札者 |
click | (名)カチッという音 |
sigh | (動)〔悲しみ・安心・疲れなどで〕ため息をつく,吐息をつく |
Part3
私たちはまたあのふかふかの椅子に座っている。
ウェンディはじっと見守っている。
ロビーに人間サイズの猫は見当たらない。
眠くなりそうだ。
ほぼ一時間が過ぎた。
突然、ウェンディが私をつつく。
「彼!彼よ!」
私は顔を上げる。
二十歳か二十五歳くらいに見える男が、母親ほどの年齢の女性と通り過ぎていく。
彼は痩せている。
彼女はそうではない。
服装はごく普通だ。
私はウェンディに小声で尋ねる。
「あれがCraig the Cat’s?どうしてわかるの?普通の男に見えるけど。」
ウェンディは答えない。
立ち上がると、男と女の後を追い始めた。
二人はホテルのカフェへ向かっている。
私も全員の後を追う。
男と女が席に着くのが見える。
彼らはメニューを見ている。
ウェンディはアルバムを握りしめ、二人のところへ駆け寄った。
「サインをいただけますか?」と彼女は男に尋ねる。
女がウェンディを睨みつける。
「彼はサインなんてしないわ」と言う。
「ただの普通の人よ。普通の人だってわからないの?」
「あなた、Craig the Cat’sでしょ!」ウェンディが男に言う。
彼女はとても大きな声で言う。
「どうして俺がCraig the Cat’sだって分かるんだ?」
男もまた大声で問いかける。
カフェの客が振り向いて凝視する。
客たちは繰り返す。
「Craig the Cat’s!」
突然カメラを持った人物が現れ、Craigに向けてレンズを向ける。
ウェンディはかがみ込み、Craigの顔の前に自分の顔を差し出す。
あまりに速い動きで、信じられなかった。
カメラマンが「どけよ、ガキ」言う。
poke | (動)(指・腕・棒などで)〈…を〉突く,つっつく,こづく |
---|---|
lean | (形)〈人・動物が〉(ぜい肉がなく引き締まって)やせた,細い |
normally | (副)標準的に,順当に,正常に |
whisper | (動)〔人に〕ささやく,ひそひそ話をする 〔to〕; 〔人の耳に〕ささやく |
ordinary | (形)普通の,通常の |
rush | (動)〈…を〉急がせる,急いで行なう |
clutch | (動)(手またはつめなどで)〈…を〉ぐいとつかむ,しっかり握る |
glare | (動)(怒りや敵意をこめて)〔…を〕にらみつける,ねめつける |
stare | (動)〈人が〉(目を丸く見開いて)じっと見る,凝視する; じろじろ見る |
aim | (動)ねらいをつける |
bend | (動)上半身[腰]を曲げる |
Part4
Craigの母親がカメラマンを睨みつける。
「さっさと行け!」と手を振りながら言う。
「今すぐ出て行け!」
カメラマンは去る。
ウェンディも同様だ。
彼女は私のもとへ駆け戻る。
私はシダの陰に隠れている。
ウェンディは冷静さを失っている。
「追い出されるか逮捕される前にここから逃げよう」と言う。
私たちはドアに向かって駆け出した。
「待て!」と誰かが叫んでいる。
「待て」という言葉を聞くと、私はさらに速く動く合図だと感じる。
だがウェンディは止まった。
「彼だ!」と彼女は振り返らずに言う。
私は振り返った。
Craig the Cat’sだった。
一人きりだ。
彼はウェンディに駆け寄った。
「どうして俺だと分かった?」と尋ねる。
「メディアに宿泊先は伝えてない。部屋番号なんて絶対に教えない。猫のコスチュームも着てなかった。それに母と一緒だった。どうして?」
ウェンディは私を見る。
答えるべきか迷っている。
彼女には答えたくなる部分と、答えたくない部分がある。
彼女はCraigの方を向く。
「私はあなたの専門家なの」と言う。
「あなたは豪華で古いホテルが好きだって知ってる。ここは街で一番古くて豪華なホテルだ。ラッキーナンバーが12だって知ってるから、12階の1212号室に泊まると思った。パフォーマンス以外ではいつも赤い靴下を履いてるって知ってるから、今夜はロビーで足首を観察してた。それにマネージャーと一緒にいるはずだって知ってた——あなたの母親とね。」
shoo | (動)〈子供などを〉さあさあと言って追い払う |
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immediately | (副)直ちに,早速 |
fern | (名)【植物, 植物学】 シダ |
yell | (動)叫び声をあげる,大声で叫ぶ |
signal | (名)信号,合図 |
costume | (名)服装,身なり |
fancy | (形)上等の,特製[特選]の |
sock | (名) ((ふつう~s))(短い)靴下,ソックス |
ankle | (名)足首 |
Part5
「カメラマンは?」
「猫の衣装とメイクなしでは写真を撮られたくないって知ってるよ。今年の10月8日のインタビューで、猫のイメージが台無しになるって言ってたじゃないか。だからカメラマンがあなたを撮ろうとした時、私の顔をあなたの顔の前にかざしたんだ」
「俺のために?」
「特別な友達のためなら誰でもそうするよ」
「でも君は俺のこと知らないじゃない」
「知っているよ。誰かの記事を読めば、その人はわかる。もちろん全部信じるわけじゃない。特定の部分を拾い上げるんだ。虚構の向こうにある真実を探す。Craig the Cat’sについて、11冊の雑誌で71ページも読み込んで、そうしてあなたを友達だと思えるようになったんだ」
Craig the Cat’sは、まるで自分がファンであるかのようにウェンディを見つめている。
彼は彼女に畏敬の念を抱いているのだ!
それは決して天地を揺るがすような出来事ではない。
群衆が歓声を上げるわけでも、世界の指導者たちの首脳会談でも、宇宙の大変革でもない。
ただ、ドミニオン・インペリアル・インターナショナル・ホテルのロビーで起きた、小さくて素敵な瞬間で、そしてそれは、ウェンディにとって永遠に消えることのないものとなるだろう。
再びホテルのカフェに戻った。
テーブルを囲んで四人、食事をしている。
Craigの母親は満足げな母猫のように慈愛に満ちた笑みを浮かべ、子猫たちを見守っており、その子猫たちには今やCraigに加え、ウェンディと私も含まれている。
食事を終えると、ウェンディはレコードアルバムをCraigに手渡した。
「今なら、サインをいただけますか?」と彼女は尋ねた。
makeup | (名)(俳優などの)メーキャップ,扮装(ふんそう), (女の)化粧 |
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wreck | (動)〈計画などを〉台なしにする,めちゃくちゃにする |
feline | (形)【動物, 動物学】 ネコ科の |
unreality | (名)非現実(性) |
awe | (名)畏(おそ)れ,畏怖(いふ), 畏敬 《尊敬と恐れの交錯した感情》 |
earthshaking | (形)大地を揺るがすような,大変重要な |
roar | (動)わめく; うなる; 泣きわめく; 笑いどよめく |
universe | (名)宇宙; 天地万有,万物 |
beam | (動)ほほえむ |
benevolently | (副)慈悲深く |
contented | (形)満足している,満足そうな |
preside | (動)最高の位置を占める |
brood | (名)(一家の)子供たち |
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