Lesson7 “Advances in Medical Technology”

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プラナリアは清流に生息する小さな動物の一種です。

再生能力が非常に高いことで知られています。

プラナリアを半分に切ると、約2週間で2匹のプラナリアを得ることができます。

トカゲに似た両生類の一種であるイモリも、失った体の一部を再生する能力を持っています。

プラナリアのように新しい頭を作ることはできませんが、新しい足を作ることはできます。

私たちが怪我をしたときに、新しい手足や指を生やすことができればいいのですが、それはできません。

では、なぜでしょうか?

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人間や他の多くの動物がプラナリアやイモリのような再生能力を持たない理由はまだ明らかではありません。

しかし、私たちの身体は高度に洗練されたシステムで構成されているため、間違いを避けるために、身体はパーツの再生を活発に行うことに慎重になっています。

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それでも、世界中で多くの科学者や医師が、損傷した身体のパーツを交換する必要がある患者の治療の困難を克服しようとしています。

人工的なパーツを使ったり、人の体の他の場所や他人の体から取り出したパーツを移植したりすることは、ある程度有効ではありますが完全ではないです。

しかし、もし自身の体の細胞から部位を作ることができれば、多くの問題を解決できるでしょう。

身体の一部を再現する科学は、組織工学と呼ばれています。

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この分野で最も有名な科学者の一人に、京都大学の山中伸弥博士がいます。

彼は最初、腰痛や手足の骨折、関節の損傷などを治療する内科医でした。

ある日、彼は関節に深刻な病気を抱えた女性を見かけました。

彼女の関節がひどい状態になっているのを見て、彼はとてもショックを受け、その病気の治療法を探すことにしました。

彼は深刻な病気や怪我に苦しむ患者を治療する良い方法を見つけたいと思いました。

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体の一部となる組織を作る方法のひとつは、ヒトの卵細胞を使うことで、卵細胞は毛髪や筋肉など、体内のあらゆる組織に成長する能力をもっています。

しかし、この方法にはいくつかの問題があります。

患者を治療するためとはいえ、生きている人間の卵子をモノとして扱い、「殺す」のは間違っているという意見が多いです。

さらに、この方法は人間のクローンを作ることにつながるのではないかと恐れられています。

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何年もの間、山中博士と彼の研究チームは、組織を作る別の方法を見つけようと懸命に努力してきました。

そして2007年、ついに人の顔から採取した皮膚細胞から心筋組織を作ることに成功しました。

その方法は、まず皮膚細胞に4種類の特定の遺伝子を加え、元の状態、つまり卵細胞に似た状態に戻すというものでした。

次に、その細胞を特殊な液体に入れ、心臓の筋肉組織に成長させるのです。

細胞を“リセット”するために使った4つの遺伝子は、2万以上の遺伝子の中から発見され、現在では「山中因子」と呼ばれています。

初期化された細胞は、身体のあらゆる部位の細胞に成長することができ、iPS細胞と名付けられました。

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山中博士の発見は、組織工学の研究を促進しました。

iPS細胞は、傷ついたり状態が良くない身体の部分に移植することで、様々な病気や怪我の治療に利用できます。

例えば、心臓の筋肉が損傷して心臓の働きが悪くなった場合、医師はまず皮膚のごく一部を切り取って細胞を採取します。

次に、その皮膚細胞をiPS細胞に変え、筋肉細胞に成長させます。

そして最後に、その細胞を心臓に移植するのです。

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山中博士のチームは、ギリギリで、ヒトiPS細胞の作製方法を発表した最初の研究者でした。

ジェームス・トムソンというアメリカ人研究者が同様の論文を『サイエンス』誌に発表したのですが、山中博士の論文が先にオンラインに掲載されたのです。

もしこの論文があと1日遅れて掲載されていたら、このような素晴らしい発見をしたという栄誉は、代わりにトムソン博士のものになっていたでしょう。

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世界中の研究者が今、この技術を実用化しようと競い合っています。

この功績で2012年のノーベル医学生理学賞を受賞した山中教授は、このような競争は実用化を待つ患者にとって良いことだと言います。

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2014年、iPS細胞から作られた眼球組織が、重い眼病を患っていた患者に移植されたというニュースが世界中を驚かせました。

内臓を作る研究も数多く進められています。

たとえば2015年には、腎臓の機能に必要な細胞をすべて備えたミニチュア腎臓が作られました。

近い将来、医師はこのようなミニチュア腎臓を人体に移植することになるでしょうし、当面は新しいタイプの薬の副作用のテストなどの実験に使うことができます。

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現在、iPS細胞は心臓、目、脳神経、血液の病気や怪我の治療に使われる研究段階にあります。

日本政府は2019年、脊髄損傷患者の治療にiPS細胞を使用することを承認したので、脊髄もこのリストに加わりました。

事故によって体を動かす能力を完全に失った患者が、近い将来自分の足で立てるようになるかもしれません。

国内外の医師や研究者たちは、患者にできるだけ早く安全に最善の治療を提供するために懸命に努力しています。