1
「ハンス・クリスチャン・アンデルセン賞 を贈っていただき、本当にありがとうございました。
第二次世界大戦後まもなく、IBBYの創設者ジェラ・レップマンが児童文学を通じて世界平和を実現するために尽力されました。
そのご苦労に深く敬服いたします。
私は戦争のさなか、10歳の少女でした。
その絶望的な時に、本が私に生きる勇気を与えてくれました。
そのため、この賞は私にとって特別な意味をもっています。」
2
2018年、児童文学作家の角野栄子さんが、児童文学の小説賞とも言われる「IBBYハンス・クリスチャン・アンデルセン賞」を受賞しました。
授賞式では、幼少期に本に助けられたエピソードが語られました。
どんぶらこっこ、すっこっこなどのオノマトペも披露されました。
幼い頃、母親が亡くなってよく泣いたそうです。
そんな彼女をなだめるために、父親はこれらの音で始まる物語を話してくれました。
「どんぶらこっこ、すっこっこと大きな桃が川を流れてきました」
3
日本では、川を流れる桃を語るとき、人によってさまざまなオノマトペが使われます。
栄子の父親は、どんぶらこっこ、すっこっこと、心地よいリズムで、栄子はそれを聞くのが好きでした。
今でも、その言葉がよみがえります。
仕事がうまくいかないと、無意識に「どんぶらこっこ、すっこっこ」と言ってしまうそうです。
そうすると、彼女は物語を書き続けることができるのです。
この言葉は、彼女の魔法の呪文なのだ。
4
日常生活では、鳥のさえずりや風雨の音、歩く、ドアを開ける、料理をするなどの人間の生活音が聞こえてきます。
日本では、これらの音を聞きながら、想像力を働かせて多くのオノマトペを生み出してきました。
栄子さんのお父さんはオノマトペを作るのがとても上手で、それが物語をより楽しいものにしていました。
栄子さんはお父さんのおかげで、お話が大好きになりました。
5
24歳のとき、夫とともにブラジルに渡りました。
最初はポルトガル語がまったく話せず、生活は大変でした。
しかし、幸運にもルイジーニョという男の子と友達になり、彼が彼女のポルトガル語の先生になってくれました。
ルイジーニョは歌のような声で話すので、それを聞きながら楽しくポルトガル語を覚えました。
驚くべきことに、彼が彼女に話すと、言葉の意味が声から伝わってくるのです。
6
ある日、ルイジーニョは彼女をダンスに誘うが、彼女は恥ずかしがって踊れません。
彼は「栄子、君には心臓がある、トクトクと鼓動しているだろ?
それを聞いていれば、踊れるようになるんだよ。
人間はそういうふうにできているんだ!」と言いました。
この言葉を聞いて、彼女は唖然としました。
父親がオノマトペを使って話をしてくれたとき、そのトクトク感を思い出したのです。
それまで言葉の意味ばかりを考えていた彼女は、ルイジーニョに出会って、言葉の不思議さ、奥深さを知ることになります。
語彙が少なくても、言葉のリズムや響きがよければ、驚くほど聞き手に届くということを実感しました。
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栄子は2年間のブラジル留学を終え、日本に帰国しました。
34歳のとき、卒業した大学の教授から「ブラジルの子どもたちについてのノンフィクションを書いてほしい」と依頼されました。
彼女は物語を書いたことがなく、無理だと思いましたが、「書いてくれ」と言うのをやめようとはしませんでした。
そこで彼女は、ルイジーニョのことを書けばいいと考えました。
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数カ月間、懸命に努力し、執筆に成功しました。
この体験を通して、彼女は書くことが自分の好きなことだと気づき、一生この仕事をしようと決心しました。
そのおかげで、彼女の人生はこれまで以上に楽しく思えるようになりました。
9
物語の中の言葉は、読んだ瞬間の読者の感情や気分と結合すると考えています。
そして、その言葉は読者の想像力と結びつき、読者の内なる辞書の一部となるのです。
この辞書は、想像し、創造する大きな力となり、困難な状況にあっても人々を支えてくれるのです。
そして、物語には人と人をつなぐ力があると、栄子は信じています。
そう信じて、彼女はこれからも書き続けるでしょう。
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