Reading “Cremona”

Section1

2020年4月16日、イタリアのクレモナという街で、美しいヴァイオリンの音色が響きました。

多くの人がしばらくの間、仕事の手を止め、ある人は涙を流し、ある人はそのメロディで疲れた顔にわずかな笑みを浮かべました。

演奏された曲は6曲。

バッハのヴァイオリンソナタ第2番から「アレマンデ」、ジョン・ウィリアムズの「シンドラーのリストのテーマ」などです。

曲目が終わるたびに、歓声と拍手が、遠くの屋根の上にいるにもかかわらず、ヴァイオリニストに届きます。

しかし、その拍手は決して大きなものではありません。

ビニール手袋で覆われた手からは乾いた音しか出ません。

それはクレモナ郊外にある病院でした。

毎日、新型コロナウイルスの患者が大勢運ばれてきます。

医療従事者は、不眠不休で働き続けていました。

緊張のあまり、疲れ切っていたのに、誰も仕事を止めません。

それは、使命感だけでなく、一人でも多くの患者を救いたいからでした。

そんな時、病院の屋上からバイオリンの音が聞こえてきました。

「この音はどこから聞こえてくるのだろう?」

多くの人が耳をバイオリンの方向に向けました。

後日、医療関係者の一人が「どんなに辛く、ストレスがあっても涙を流すこともできませんでした。

でも、バイオリンのメロディーが緊張を解きほぐしてくれました。

私の目は涙でいっぱいでした。

その後、私はリラックスすることができました。」と言いました。

shed(動)〈血・涙などを〉流す,こぼす
slight(形)(数・量・程度など)わずかな,少しばかりの,ちょっとした
Allemande(名)アルマンド、アルマンド
sonata(名)ソナタ,奏鳴曲
Bach(名)バッハ
Schindler(名)シントラー;シンドラー
applause(名)拍手かっさい; 称賛
violinist(名)バイオリン奏者,バイオリニスト
vinyl(名) ビニール 《樹脂製プラスチック》
glove(名)(指が分かれている)手袋
novel(形)新しい,新奇な,奇抜な
coronavirus(名)コロナウイルス
medical(形)医学の,医療の
exhausted(形)疲れ切った,へとへとになった
rooftop(名)屋上
weep(動)涙を流す,泣く
stressful(形)〈仕事など〉ストレスの多い,精神的に疲れる
tension(名) 緊張,伸張

Section2

16日の夕方、屋上でバイオリンを演奏したのは、日本人のバイオリニスト、横山令奈でした。

演奏の依頼は、新型コロナウイルス対策の最前線にあるこの病院からでした。

横山は愛用のバイオリンを持って、高さ約30メートルの屋上に登りました。

屋上からは、クレモナの美しい街並み、鳥のさえずりが聞こえる静かな森が見えました。

眼下には、新型コロナウイルスの患者を収容する白いテントがたくさんありました。

横山はしばらくの間、目を閉じました。

そして、医療従事者への感謝と、患者さんたちが再び音楽や芸術を楽しめるようになる日を願って、ヴァイオリンを弾き始めました。

彼女は、「ロックダウン以来、医療崩壊の瀬戸際に立たされていたクレモナや近隣都市の病院の人々、このウイルスが原因で亡くなった人々やその家族、家にいるしかできない人々のことを思い、心を込めてバイオリンを弾きました。」と語っています。

横山は大阪府箕面市に生まれました。

幼少の頃、両親からバイオリンを習い始めました。

高校卒業後、2006年にクレモナへ留学し、現地の音楽学校でヴァイオリンを学びました。

様々な著名なコンクールで1位を獲得しました。

なぜクレモナを選んだのでしょうか?

request(動)〈ものを〉懇願する,要請する,頼む
cityscape(名)(大都会の)都市の景観[風景]
gratitude(名)〔人に対する〕感謝(の念) 〔to〕; 〔行為などに対する〕謝意
healthcare(名)健康管理

Section3

イタリア北部に位置するクレモナは、人口約7万人が暮らす小さな都市です。

古代ローマ時代から北イタリアには欠かせない場所でした。

この街の名前がよく知られているのは、16世紀、熱心な音楽庇護者であった14代教皇グレゴリウスが音楽活動を奨励したためです。

クレモナは音楽の中心地として有名になりました。

そのおかげで、多くの楽器製作者が集まり、ヴァイオリンを中心としたさまざまな楽器の工房を設立しました。

その中に、アントニオ・ストラディヴァリもいました。

彼の工房は1680年、街の中心部に設立されました。

彼は若い頃に有名になりました。

93歳で亡くなるまでに、約1,100本のヴァイオリンを製作しました。

現在、彼のヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、マンドリン、ギターのうち約600本が残されています。

あるバイオリニストは、ストラディヴァリのバイオリンについて、「はっきりと、信じられないほど甘く歌うことができる」と言っています。

また、普通のバイオリンでは出せないような激しい音や響きも出すことができます。

有名なチェリスト、ヨーヨー・マは、「この楽器には魂と想像力がある」と言っています。

そのため、ストラディバリの作品は希少価値があり高価です。

最も高価なバイオリンは20億円とも言われています。

多くの研究者が、彼の作品に関する謎を解明しようと試みてきました。

木材の質なのか、ニスの質なのか、それとも構造なのか?

しかし、誰も結論を出すことはできませんでした。

location(名) 位置,場所,所在地,ありか
Pope Gregorius(名)グレゴリオス法王
earnest(形)まじめな,真剣な; 熱心な
patron(名)(人・団体・事業などの)後援者[団体], パトロン,保護者,奨励者
producer(名)生産者
workshop(名)(製作・修理などをする)仕事場,作業場
Antonio Stradivari(名) アントニオ・ストラディバリ イタリアのバイオリン製作者で、現代的なバイオリンを開発し、優れた色調の品質のバイオリンを作った
viola(名)ビオラ
cello(名)チェロ
mandolin(名)マンドリン
unbelievably(副)信じられないほど(に)
sweetly(副)甘く;うまく;心地よく,調子よく
intense(形)〈感情など〉熱烈な,強烈な; 極端な
Yoyo Ma(名)ヨーヨー・マ
cellist(名)チェロ奏者
imagination(名) 想像,想像力
scarcity(名)(生活必需品などの)不足,欠乏
clarify(動)〈液体などを〉澄ませる,浄化する
varnish(名) ニス,ワニス
structure(名)構造,機構,組織,組み立て

Section4

2015年、アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)は、ストラディバリウス・バイオリンがなぜあのような独特の音を奏でるのか、その鍵を発見することができました。

コンピューター断層撮影、CTスキャン、X線などを駆使して、他のバイオリンとストラディバリウス・バイオリンを比較し、空気が通るf字型の穴の長さが、このバイオリンの出す音の鍵であることを検証したのです。

このように、ストラディバリウスが奏でる音の秘密は、より良い音を奏でるf字型の穴にあるという結論に至ったそうです。

今、クレモナにはヴァイオリン博物館があります。

そこでは、ヴァイオリン製作の歴史を学び、ストラディヴァリウスの工房で使われていた図面やフレーム、道具を見ることができます。

また、室内楽ホールでは、ミニコンサートも開催されています。

横山令奈は今、このコンサートホールの出演者の一人です。

クレモナで最も人気のあるヴァイオリニストの一人です。

クレモナの楽器職人たちは、今でも先人たちの技術を受け継ぎ、高品質な弦楽器を作り続けています。

横山は「音楽を通して人の心に語りかける演奏家として何ができるかをずっと考えてきました。

ネガティブなことを考えると際限がありません。

でも、現場で流れる音楽が人の心に響いて、少しでも勇気づけられたらうれしいです。」と語ります。

クレモナの空気に、ヴァイオリンの音色は残っています。

そして、その音に励まされた医療従事者たちは、最前線で頑張っています。

Massachusetts(名)マサチューセッツ州
institute(動)〈制度・習慣などを〉設ける,制定する
key(名)かぎ,キー
Stradivarius(名)ストラディバリウス
computerize(動)〈情報を〉電算機にかける[で処理する]
tomography(名) 断層写真術
CT scan(名)CTスキャン
X-ray(名)エックス線,レントゲン線
verify(動)〈事実・陳述などの〉正しい[正確な]ことを確かめる
length(名) (端から端までの)長さ; (縦横の)縦; 丈(たけ)
conclude(動)〈…を〉終わりにする; 完結する
frame(名)(建造物の)骨組み
chamber(形)室内向きに作られた; 室内音楽の
craftsmen(名)技芸家,技術家,職人,名工,名匠
inherit(動)〈財産などを〉〔…から〕受け継ぐ,相続する
predecessor(名)前任者; 先輩
string(名)(楽器の)弦,糸
negative(形)否定の,否認の,打ち消しの; 否定的な
resonate(動)鳴り響く,響き渡る