CHAPTER9 “Edo, the Resilient City”

1

英語にはこんなことわざがあります。

“百聞は一見に如かず “です。

私たちは過去を直接体験することはできませんが、写真から多くを学ぶことはできます。

写真1を見てみましょう。

この写真では、1800年前後の江戸時代日本橋界隈の人々の賑わいが描かれています。

これを見ていると、「大江戸」と呼ばれた江戸に実際にいたかのような錯覚を覚えるかもしれません。

江戸は18世紀初頭に人口が100万人を超え、世界有数の大都市となりました。

その100年前、江戸時代の初めには15万人しか住んでいませんでした。

わずか1世紀で江戸が急成長したのはなぜでしょうか。

江戸を襲った数々の火事。

そして皮肉なことに、これが “人口爆発 “の大きな原因のひとつとなりました。

これについてを説明するために、写真2を見てみましょう。

1657年3月の「明暦の大火」の写真です。

それは最大最悪の火事でした。

3日間燃え続け、江戸の70%が灰燼に帰しました。

多くの人が焼け死んだり、炎から逃れるために飛び込んだ川で溺れたりしました。

また、倒壊した家屋の下敷きになって圧死した人や、屋外で凍死した人もいました。

死者の数はおよそ60,000人に達しました。

resilient (形)回復力のある、立ち直りが早い
revive (動)生き返らせる、蘇生させる、復活させる
worth (名)価値
directly (副)直接に
population (名)人口
rapidly (副)急速に
what is called いわゆる
strike (動)襲う
ironically (副)皮肉にも
explosion (名)爆発、急増
percent (名)パーセント
ash (名)灰
drown (動)溺れ死ぬ
escape (動)逃げる
flame (名)炎
crush (動)押しつぶす
collapse (動)つぶれる、崩れる
…to death 死ぬまで、死に至って

2

大火の後、徳川幕府は江戸の復興に乗り出しました。

江戸をより火に強い街にするための計画が練られました。

道路の拡張、避難所となる小さな公園の建設、火災の延焼を防ぐための大きな空き地の造成などです。

ご想像の通り、こうした大規模な公共事業は膨大な労働力を必要としました。

日本全国から多くの人々が職を求めて江戸に移り住んだことも、江戸の人口が急増した一因です。

これらの新しい労働者は、被害を受けた都市の再建に貢献しました(写真3参照)。

大きなプロジェクトのひとつは、隅田川に両国橋という新しい橋を架けることでした。

この橋が必要だったのは、大火の際に多くの人々が対岸にたどり着こうとして溺死したからです。

橋は、対岸の地域を開発するためにも建設されました。

新しい橋のおかげで、川の両岸で商売が繁盛しました。

写真4にあるように、この橋は今日でも花火の名所となっています。

shogunate (名)将軍の職
reconstruct (動)〜を再建する、復元する
resistant (形)抵抗力のある、耐久性のある
expansion (名)拡大
shelter (名)避難所
creation (名)創造
prevent (動)防ぐ
set out to do (人)が…するために動き出す
work out… なんとか解決する
call for… 〜を指示する
prevent… from doing 〜するのを阻止する
require (動)必要とする
enormous (形)非常に大きな
seek (動)探し求める
sharp (形)(増加の程度などが)激しい、著しい
contribute (動)貢献する
rebuilt (形)立て直された、改築された
damage (名)損害、被害
flourish (動)花開く、繁栄する

3

江戸市民も「自助の精神」で火災から身を守る努力をしました。

たとえば、日本橋界隈の商人たちは、自分たちの店だけでなく、そこに住む人々を守るために、火消組を組織しました。

それが18世紀初頭には、写真5のような「町火消(まちびけし)」、または「町消防士」へと発展していったのです。

こうして、自主的な消防団が誕生しました。

命がけで消火活動をする町火消しのメンバーは、人気のヒーローとなりました。

子供も大人も彼らの勇敢な行動に魅了されました。

写真6にあるように、彼らの物語は歌舞伎や浮世絵の題材にもなりました。

江戸時代末期、火事が起こると、手書きの新聞が路上で売られました。

火事の様子、被災者の収容場所、炊き出しの場所などが報じられました。

この新聞を通して、人々は身内や友人の情報を得ることができ、必要な時には助けに駆けつけることができました。

citizen (名)市民
spirit (名)心持ち、考え方、気性
self- (名) 自分自身
merchant (名)商売
organaize (動)編成する、組織する
resident (名)居住者
depict (動)描写する
thus (副)従って、このようにして
voluntary (形)自由意思の、自発的な
make an effort 努力する
risk (名)恐れ、危険
fascinate (動)魅了する、心を捉える
woodblock (名)木版(画)
occur (動)起こる、発生する
victim (名)被害者、被災者
house (名)家
locate (動)〜を探す、見つける
rush (動)大急ぎでする、急行する
when needed 必要に応じて

4

江戸市民は江戸っ子と呼ばれ、気前の良さを誇りにしていました。

よく言われるのは、「江戸っ子は夜中までに一日の稼ぎを使い果たしてしまう」です。

彼らは自分のためだけでなく、困っている人のためにも気前よくお金を使いました。

彼らにとって、お金は行ったり来たりするものでした。

それに、ひとたび火事が起きれば、お金はほとんど意味をなしません。

最も重要なのは人の命であり、お金ではなかったのです。

江戸市民はお金だけでなく、助け合いにも寛大でした。

江戸っ子は、災害がいつ起こるかわからないことを知っていました。

しかし、何度も大火を経験したことで、自助・共助の精神を信じ、より強くたくましくなったのです。

実際、彼らの逞しさがなければ、江戸の復興はありえませんでした。

日本は災害の多い国です。

この国に住む限り、私たちはその事実を受け入れなければなりません。

技術が限られていた時代に、火災に見舞われた江戸の町を何度も復興させた江戸の人々から学ぶことは多いです。

generous (形)気前の良い、寛大な
earnings (名)賃金
generously (副) 気前よく
besides (副)その上、さらに
matter(v.) (動)重要である
take pride in… 〜を誇りに思っている
…in need 困っている
come and go 行ったり来たりする
break out 起こる、突発する
mutual (形)相互の
assistance (名)援助
disaster (名)災害
resilience (名)回復力
reconstruction (名)再建、復興
at any time どんな時も
believe in… 〜を信じる
frequently (副)頻繁に
limit (動)最高、限度
succeed in … 〜に成功する
time after time 何度も何度も